COLUMN
TRAVEL 29 Aug 2019

小ウィーンと呼ばれるオーストリアのような町並みのトリエステ、カフェと作家の街を訪れて

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ユニークな歴史背景を持つ、イタリアらしくない街トリエステ

スロベニアとの国境に位置し、アドリア海に面した北イタリアの港湾都市トリエステ。
日本人にとっては「トリエステの坂道」の著者でイタリア文学の翻訳者として活躍された須賀敦子さんゆかりの街として知られています。が、観光地としてはまだ知名度が低い街で、トリエステを夏と冬に二度訪れた際も日本人をほとんど見かけませんでした。

アドリア海に面した北イタリアの港湾都市トリエステ

私も須賀敦子さんのドキュメンタリー番組を観てイタリアの中でもユニークな歴史背景を持ったトリエステに興味を持った一人なのですが、実際に訪れて感じたこととトリエステ出身の作家で知人のルーチョさんから伺ったお話を伝えたいと思います。

“VIVA LA’ E PO BON” (ヴィヴァ・ラ・エ・ポ・ボン)

“VIVA LA’ E PO BON” (ヴィヴァ・ラ・エ・ポ・ボン)。トリエステを語る上で欠かせないフレーズです。実は一般のイタリア人でも理解できないこのフレーズなのですが、それもそのはず、このフレーズはトリエステの方言なのです。意味は、「この一瞬を生きろ。新しくやって来るものに適応しろ。未来は案ずるな。」といった意味で、トリエステというイタリアの中でも特殊な歴史を背景にもつ街であるゆえに生まれたフレーズなのです。

トリエステの港からは世界中から人や文化が入ってきたことでイタリアとなったのはわずか65年前のこと

トリエステは第一次世界大戦まで長い間オーストリア=ハンガリー帝国の統治下、第一次世界大戦後はイタリア王国、さらに第二次世界大戦後は「トリエステ自由地域」として国際連合の管理下にありました。トリエステが正式にイタリアへ併合されたのは1954年、わずか65年前のことです。イタリアに併合されるまでは重要な港町として繁栄し、港へは世界中から人が訪れ物資が入ってきました。そんなめまぐるしく変わる歴史に翻弄され、港を通して新しい文化に触れ続けてきたトリエステだからこそ”VIVA LA’ E PO BON” というフレーズが生まれました。

「小さなウィーン」今も色濃く残るハプスブルク家の影響

昔を知っているトリエステ市民は今でもイタリアに併合される前の豊かな時代に想いをはせ、イタリア人というよりトリエステ人でいたいと願う意識があります。隣町モンファルコーネに行くことを「イタリアに行ってくる」と言うほどで、ある意味イタリアの中で最もイタリアらしくない街と言えます。

ハプスブルク家の影響が強く、街並みにもそれが感じられる

「小さなウィーン」と呼ばれるように街の景観にしてもウィーンに似ており、オーストリアのハプスブルク家の影響が今も色濃く残った優雅で美しい建物が立ち並びます。

創業1918年の老舗菓子店PENSO(ペンソ)では、今も店内にオーストラリア皇帝フランツ・ヨーゼフ一世の肖像画が掲げられており、パティシエのイタロさんは「皇帝が在位していた時の写真なんですよ」と曾祖母の写真を見せてくれました。

老舗洋菓子店ペンソにはオーストリア皇帝の肖像画が掲げられている

ペンソの店内。壁にかかっているのがフランツ・ヨーゼフ一世の肖像画

ペンソで人気のアップルシュトゥルーデルもオーストリアやドイツの名物

自慢のアップルシュトゥルーデルを持つパティシエのイタロさん
その影響はもちろんスウィーツにも。PENSOではトリエステ伝統菓子を販売していますが、ウィーンやドイツ名物のアップルシュトゥルーデルも名物で、PRESNITZ(プレスニッツ)という焼き菓子はアップルシュトゥルーデルと似たようなお菓子で名前からしてオーストリア風です。

プレスニッツはパスクワにも食べられる伝統的なトリエステ菓子

プレスニッツはパスクワにも食べられる伝統的なトリエステ菓子
プレスニッツは、ナッツ類、ドライフルーツ、チョコレート、スパイス、ラム酒などでできたフィリングを詰めたパイ焼き菓子で、渦巻きのような形はキリストのいばらの冠を象徴しています。甘さ控えめで日本人の口にも合い、日持ちがするためお土産としてもお勧めですよ。

illy(イリー)の本社もあるトリエステはカフェ文化と作家の街

トリエステを語る上で欠かせないのはカフェ文化です。貿易港として栄えていた頃にアフリカからヨーロッパへコーヒー豆が輸入され、さらにオーストリアのカフェ文化の影響を受け、コーヒーの街となりました。日本人にも人気のコーヒー「illy(イリー)」の本社もトリエステにあります。

今も多くの文化人たちから愛されてきた歴史的なカフェテリアが数多くそのまま残されており、クラッシックで優雅な内装を眺めながらコーヒーを楽しむことができます。

トリエステゆかりの作家たちが通っていたカフェ・トンマセオ

トリエステゆかりの作家たちが通っていたカフェ・トンマセオ
私の知人でトリエステ出身の作家のルーチョさんも、「トリエステは作家の街です」と過去を懐かしみながら当時の思い出を語ってくれました。自身もいつか作家になることを夢見て、1830年創業の老舗カフェテリア“Caffe’ Tommaseo”(カフェ・トンマセオ)に通い、カフェを飲みながら執筆活動をしていたそうです。
「沢山の作家がカフェテリアで執筆活動をしていて刺激を受けていました。イタリアの有名作家クラウディオ・マグリスはカフェ・トンマセオで常に2~3台のテーブルを予約していてそこを仕事場にしていました。そこで題材のリサーチをしたり、執筆したりしていたんですよ。」

アイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスは傑作「ユリシーズ」の一部をトリエステで執筆し、イタリア文学には欠かせない存在であるUmberto Saba(ウンベルト・サバ)やItalo Svevo(イタロ・スヴェーヴォ)もトリエステ出身の作家・詩人です。

午前11時のカフェの光景、どのテーブルにもグラスワイン

午前11時の光景、どのテーブルにもグラスワイン
「それから、トリエステを訪れるとちょっと驚くことがあります。トリエステの人たちは朝からお酒をよく飲むんですよ!」とはルーチョさん。実際に朝からトリエステを歩いていると、カフェテリアでビールやワインを飲んでいる光景をよく目にします。中にはアルコール度数の高いお酒を飲んでいる人たちも。

中心地から足を伸ばして港にたたずむミラマーレ城へ

観光スポットとしては街の中心に位置し思わず息を飲むほど美しいウニタ・ディタリア広場や長い階段を登って市街地を一望できるサン・ジュストの丘にあるサン・ジュスト聖堂や古城、イタリアでは唯一のドイツ軍によるユダヤ人強制収容所Risiera di San Sabba(リジエラ・ディ・サン・サッバ)などがあります。

長い坂の上にあるサン・ジュスト聖堂

長い坂の上にあるサン・ジュスト聖堂

また街の中心地から6キロほど離れたところにある、アドリア海沿いの城Castello di Miramare(ミラマーレ城)はトリエステで最も人気のある観光名所です。1856年から1860年にかけてオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の弟であるマクシミリアン大公によって築かれた白亜の城で、現在は博物館となり有料で中を見学することができます。

海沿いにそびえる美しい白亜のミラマーレ城

海沿いにそびえる美しい白亜のミラマーレ城

季節によっても表情を変え、冬には強風BORAが吹き荒れる

「BORA(ボーラ)」と呼ばれる、時速150キロにまで達する強風が吹き荒れることもあるトリエステ。「ボーラが吹くとどこかにしがみついて風が止むのを待つしかないんです。住民はどのあたりが特に強く吹くかわかっていて、気をつけながら歩くんです」とルーチョさん。そのため、トリエステの中心街の歩道にはたロープや鎖が貼られ、建築物も強風に耐えるように作られています。

冬は2メートル先が見えないほどの濃い霧が街を覆い幻想的な雰囲気となるトリエステ

私は夏と冬の二回トリエステを訪れましたが、冬は2メートル先が見えないほどの濃い霧が街を覆い幻想的な雰囲気、夏は美しい広場一面で100人は軽く超える大勢の人たちが夕食を楽しむ画期のある雰囲気と、それぞれ全く異なる表情を見せるトリエステにますます魅せられました。

トリエステは主要観光都市ヴェネチアから電車で2時間かかりますが、他のイタリアの街では味わえない

歴史に翻弄され今もなお独特の存在感を放っているトリエステ。主要観光都市ヴェネチアから電車で2時間かかりますが、他のイタリアの街では味わえない雰囲気を求めて訪れてみてはいかがでしょうか。

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WRITER PROFILE
小林 真子 Mako Kobayashi
小林 真子 Mako Kobayashi

フィレンツェ在住。元静岡朝日テレビ報道記者。2012年よりフィレンツェ在局FMラジオ番組レギュラー出演。イタリアの労働ビザを取得し、イタリア製アイテムのオンラインショップ「AmicaMako(アミーカ・マコ)」を経営。2013年、イタリアのテレビ局SKYのドキュメンタリー番組に出演。「週刊新潮」等でイタリア関連の記事やコラムを執筆。 AmicaMako https://www.facebook.com/amicamako/ https://www.blog.amicamako.com/ https://www.instagram.com/amicamako/

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