エロイカ
FEATURE
TRAVEL 13 Sep 2018

砂利道をヴィンテージ自転車&コスチュームでGO! イタリア式アマチュア走行会『エロイカ』

大矢 麻里 Mari Oya
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イタリア人の定番スポーツ

長靴半島はようやく残暑が和らぎ、朝夕は爽やかな風を感じる季節になりました。 フィットネスクラブや乗馬教室などなど、街角に貼られた勧誘ポスターが“スポーツの秋”の到来を告げています。

エロイカ
ヴィンテージ風コスチュームと、その走りっぷりに年季を感じさせるサイクリスト。坂道をものともせず走り抜けていきます。

イタリア統計局の2017年秋発表データによれば、イタリア人の34.3%は何らかのスポーツ・アクティヴィティを行っています。また、イタリア自転車協会の調査では、スポーツをたしなむ人の11.9%はサイクリングを実践していて、その数は241万4千人にのぼります。2006年の数字と比較すると20%増であることから、自転車熱が高まっていることを窺わせます。

エロイカ
コースの途中に置かれたエイドステーションにて。参加者たちは出迎えてくれたブドウ農園のおじさんと語らいながら、しばし体を休めます。

銀輪を愛する「英雄」たち

イタリアにおける最も著名なサイクリング・イベントといえば、毎年5月に開催されるプロのロードレース『ジーロ・ディ・イタリア』です。始まりを遠く1909年に遡り、第二次世界大戦中の中断を経て、2018年には101回を数えました。半島を縦断するそのコースには、2千メートル級の北部山岳地帯も含まれ、選手同士の過酷な戦いに沿道のファンから熱い声援が送られます。

いっぽう毎年10月初旬に中部トスカーナ州フィレンツェとシエナの丘陵地帯で開催される『エロイカ(L’Eroica)』は、アマチュアのサイクリング愛好家にとって羨望の走行会です。

舞台はイタリア屈指のワイン産地であるキャンティ地方。誕生のきっかけは、道路舗装を含む急速な地域整備で、素朴な砂利道の風景が失われることを憂いた地元有志たちでした。イベント名の「エロイカ」とは、イタリア語で「英雄」のこと。過酷な未舗装路を走破した往年のアスリートたちへのリスペクトが込められているのです。

参加できるのは原則として1987年以前に製造された自転車に限られています。イベントの趣旨はあくまでも走りを楽しむことなので、ロードレースのように順位は競いません。参加者は距離の異なる5つのコースから自分の実力に合わせたコースを選択し、ガイオーレ・イン・キャンティ村をスタート。疲れたら自転車を押してのんびり歩くのもOKです。コース途中のエイドステーションで振舞われるトスカーナ産生ハムやワインなどの軽食を楽しみにしている参加者もいます。のどかな自然を堪能しつつ、再びゴールのガイオーレ・イン・キャンティに戻る。これこそがエロイカの目的なのです。

「往年風のスタイル」というドレスコードにしたがい、ヴィンテージ風ウールジャージに身を包み、パンクに備えたチューブを肩にばってん掛けしてブドウ畑をすり抜けてゆく姿は、いにしえのサイクリストそのものです。

中には、「家の物置で眠っていたおばあちゃんのママチャリを引っ張り出してきた」とか、「古いタンスの中で見つけた洋服をリメイクして着てきた」という人もいます。

イタリア人には、古い物でも愛着を持って大切に使い続ける美意識があります。彼らは安易に新しいものに手を伸ばさないのと同時に、重ねた時間が作り出す思い出の価値を知っています。古き佳き時代に思いを馳せて走るエロイカは、彼らのマインドを大いにくすぐるイベントなのです。

自転車愛溢れるショップオーナー

スタート&ゴール地点のガイオーレ・イン・キャンティは、日頃、人口2700人の穏やかな村ですが、開催当日は国内外からやってきた約7000人の参加者と、彼らを応援する観光客で賑わいます。

エロイカ
キャンティ地方はイタリア屈指のワイン生産地。エロイカの出発点ガイオーレ・イン・キャンティには、キャンティクラシコ・ワインのシンボルである黒鶏の鉄製モニュメントが置かれています。その重さ800kg!

その村のメインストリートに、自転車ファンのハートを鷲掴みにするショップがあります。オーナーはエマヌエーレ・ネピさん。「以前は会社勤めをしていましたが、ファッションに関わる仕事をしたくてずっと転機を探っていました。その夢を故郷の一大イベントであるエロイカと結びつけて形にしたのが、この店です」と、開業のいきさつを語ります。

エロイカ
ガイオーレ・イン・キャンティのメインストリートで、自転車関連ファッションのショップを営むエマヌエーレ・ネピさん。

天井から吊り下げられた自転車やアンティーク・グッズは、訪れた人をまるでイタリア家庭の物置に潜り込んだようなワクワク感で包みます。エロイカ公認グッズをはじめ、デザイン性の高いジャージやシューズなど、彼のセレクトは評判を呼び、国外からのリピーターも増えました。

エロイカ
まるでイタリア人サイクリストたちの秘密基地に紛れ込んだような店内。エマヌエーレさんの審美眼にかなったアイテムが並びます。

エマヌエーレさんは仕入れて売るだけでなく、かつてデザインを学んだ経験を活かしてオリジナルTシャツもリリース。楽しげにペダルを漕ぐキャラクターたちは、彼の自転車愛の代弁者です。そうしたプライベート・ブランドには、埃舞い上がる砂利道を意味する『ホワイト・ロード』と命名しました。

エロイカ
オーナーのエマヌエーレさんが自らデザインを手がけたTシャツ。エロイカをモチーフに、愉快なサイクリストたちの姿が描かれています。

「エロイカは競技と違って勝ち負けがありません。未舗装路でパンクに見舞われた人がいれば参加者同士で助け合い、疲れたら自転車から降りて道端の人たちと語らいます。エロイカは“ふれあい”というお土産付きのイベントなのです」と、エマヌエーレさんは締めくくりました。

エロイカ
自転車のチェーンをリサイクルしたブレスレット。ファンへの粋なお土産として人気です。

エロイカ
往年のアスリートの勇姿をプリントしたトートバッグ。

2018年のエロイカは10月7日に開催されます。イベント22年目の今年も、砂埃の英雄たちがトスカーナ大地を駆け抜けます。

エロイカ
スイスからやってきた自転車愛好家サンドラ&クリスチャン夫妻とエマヌエーレさん。彼らに共通するのは銀輪を愛する想い。初来店というのに、すぐに打ち解けてポーズを決めてくれました。

Information: 
L’Eroica    www.eroicagaiole.com
La Bottega Gaiole in Chianti  www.white-roads.it

WRITER PROFILE
大矢 麻里 Mari Oya
大矢 麻里 Mari Oya

東京出身。幼稚園教諭、商社勤務を経て、1996年にイタリア・トスカーナの古都シエナに移り住む。国立シエナ外国人大学で学び、現地の料理教室の通訳兼助手に従事したのち、新聞・雑誌への連載を開始。NHK『マイあさラジオ』をはじめとするレポーターとしても活躍中。著書に『イタリアの小さな工房めぐり』(新潮社)がある。

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