籠いっぱいの薔薇
FEATURE
LIFESTYLE 29 Jun 2020

「初夏の薔薇しごとに思う」林由紀子の土着的イタリア田舎暮らし日記再開編

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皆さんこんにちは。

イタリアはやっと6月3日から移動規制が解除され、自由に全国を申請書なしで移動できるようになりました。長い長いトンネルのようだった閉鎖期間、まだまだ多くの不安は残れどようやく小さな光が見えてきたような、少し戸惑いを感じながらも一歩前に進むような、そんな気持ちを抱きながら人々が初夏の光を浴びながら外へ出て行った、記念に残る1日でした。

私たち家族の田舎暮らしは、幸運にも旦那さんが在宅ワークが出来たこともあり、あまり普段と変わり映えのしないものでしたが、息子は学校の宿題とビデオ授業をこなす日々でした。
私はと言えば、与えられた膨大な時間を活かして、今まで打ち込めなかった“春仕事”を無心でやっていた季節でした。

閉鎖中沢山作った保存食類閉鎖中沢山作った保存食類

6月になりやっとイタリア全土の閉鎖が終了するまで、忘れられない春から初夏までを過ごした様子を、閉鎖終了直後にした初夏の薔薇仕事も含めて今日はお伝えしてみたいと思います。

心のバランスを支えてくれた春の山

“田舎暮らし”と言っても、今までは旅の仕事が詰まっていた春が多く、周りの野山の恵みを活かして保存食作りや植物採集などをじっくりすることがなかなか出来ずにいました。せっかく自然に囲まれて暮らしていても、それを四季を通して活かすことが出来なければ、本当の意味で自然の周期に寄り添いながら暮らしているとは言えないと思っていましたし、実際自分の住んでいる地域の自然のリソースを深く活かすことこそ田舎暮らしの理想の形だと思っていましたので、閉鎖の時間を学びの時間にすり替えよう!と思うまでにそう時間はかかりませんでした。

裏山は家族のオアシスだった裏山は家族のオアシスだった

それから毎日敷地内の裏山でじっくりと“旬探し”が始まりました。春の山はひと雨ごとに様々な山菜や野草が芽を吹き、花を咲かせ、そして緑の葉を萌えさせていきます。そのサイクルの目まぐるしさには本当に驚き、1つの植物が三日ごとくらいにどんどん姿を変えてゆく様子や、山の景色も全体が少しずつ色付いていく様は、今まで見落としていた日刻みでの季節の巡りをしっかりと目の当たりにした気持ちでした。そしてこれが、元来の人間と自然の関係だったのだということも、実感した日々でもありました。

イタリアでは、毎日信じられないような数の方々がコロナで命を落とされていた時期でしたので、行き場のない不安感を自分でも無意識に鎮めたかったのだと思います。
家の敷地内の自然に足を伸ばせるだけでも幸運だったのはもちろんですが、日々移ろう自然のエネルギーを取りこぼしてはいけない、しっかりと見て焼き付けておかなければ・・そんな気持ちで毎日裏山に行き、聞いたことはあったが味わったことのない山菜を見つけたり、染色に使ってみたい植物を採集し、食卓に活用したり、野草で染色をしていました。できるだけ息子も連れて、一緒に摘めるものを探しました。

家族での裏山探検は子供も楽しい!家族での裏山探検は子供も楽しい!

“決して忘れることのない春の記憶”を自分なりに心に刻んでいたような気がします。
それは平常心を保つための、大切な自分の儀式でもあったのでしょう。いつだって自然は驚異や畏敬や親愛や尊敬の念を私たちに
与えてくれます。

長い長いトンネルの向こうの薔薇

6月3日を迎え、イタリア全土の移動が可能になり、ずっと会えていなかった親戚、友人たちと連絡を取り合いました。
といっても喜び勇んで会いに行く、というものではなく、まだまだ自分が保菌者であるかもしれない可能性は忘れず、それでも元気な顔が一目見たいから、マスクをして会おう、というものです。ただ人と会う、会えるということのありがたみを、本当に大勢の人々が痛感した日だったと思います。
以前の記事でも書いた山暮らしのロレッタから、「庭のダマスクローズが満開だから摘みにおいで」と言われ、私はマスクと手袋の完全防備で、大きな籠を持って出かけていきました。

ロレッタの庭はダマスクローズがあちらこちらに咲いていたロレッタの庭はダマスクローズがあちらこちらに咲いていた

彼女の庭に入りマスクを外した時の、立ち込めるような薔薇の香りはきっと一生忘れないと思います。山の澄んだ空気の中で、生きることを謳歌しているいのちの香りがしました。あまりにいい香りだったので、言葉もなくぼーっと庭に立っていると、ロレッタが黙って薔薇を摘み始め、彼女の摘んだ分を私に渡してくれたので、私も夢中になって摘み始めました。プチンと摘むたびに、滑らかな花びらの感触がひんやりと指を撫でて、“ああ、薔薇を摘んでいるんだ”という実感が湧きました。

籠いっぱいの薔薇籠いっぱいの薔薇

籠いっぱいになった薔薇を眺めて、やっとトンネルの向こうに出たのかしら、という気持ちになり、長い長いトンネルの向こうには薔薇があった、なんて悪くないなと思いつつ、ロレッタにお礼を言いその日は山を下りましたが、薔薇の香りの充満する帰りの車の中で、この出来事を忘れないために何を仕込もうか、とまだ動けることの自由を実感できないまま、山を下りました。

薔薇仕事に寄せて

さて、薔薇を野菜のように大量に摘む、などという贅沢な体験をしたことが無かった私は、色々な人から見聞きしたレシピから、とにかく花が沢山ないと出来ないレシピを選びました。
薔薇のリキュールに薔薇のジュレ、花の持つ酵母を活かしたスプマンテ。ハーブティーにするために乾燥も。ローズソルトは庭の薔薇で毎年作りますが、ダマスクローズで作るのは初めてです。

ボトルに詰めたいっぱいの薔薇の花びらボトルに詰めたいっぱいの薔薇の花びら

特にリキュールは、数年経たないと美味しくならないと聞いたので、この年仕込んだものを数年後味わうのは特別な意味があるように思え、大瓶で仕込みました。このリキュールが美味しくなるころ、私たちはこの年の出来事をどんな気持ちで思い出すのだろうかと思いながら。
薔薇のスプマンテは、これから再会できる予定の友人たちと乾杯をするために。

薔薇のスプマンテ仕込み、エルダーフラワーも一緒に薔薇のスプマンテ仕込み、エルダーフラワーも一緒に

一見優雅に見えそうな薔薇仕事の間、本当にたくさんのことを考えました。
コロナで亡くしてしまった友人のこと、家族のこと、イタリアのこと、日本のこと、世界のこと。
そして強く思ったのは、これからの子供たちのことです。
家族と長い時間を一緒に過ごしたこの時期、不安の中にも団結が生まれた貴重な時間でした。
毎日一緒にご飯を食べる、話をする・・心をできるだけ強く持って、前向きに毎日を過ごす。
これだけの事ですが、家の空気全体に少しでも開放感を感じさせてあげられたのでは・・と思います。
色々な植物採集などをすることも、植物の名前に興味を持ってもらうきっかけになりました。こんなに身の回りに使える植物や食べられる植物があるんだよ、ということを見せてあげられたのは、この春があったからだと言えます。今すぐに興味を持ってもらえなくても、きっといつかふと思い出してもらえるのでは?と思うのです。
心地よい薔薇の香りに包まれた薔薇仕事は、新しいステップへの出発記念となりました。

野の恵みを楽しめるようになる喜び野の恵みを楽しめるようになる喜び

やっとこれからは、また普段の田舎暮らしの様子をお伝えできると思うと心から嬉しいです。
日々自然の恩恵を受けられることをさらに感謝して、身の回りにある恵みを活かしたレポートをしていきますので、どうぞ宜しくお願い致します!


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WRITER PROFILE
林由紀子
林由紀子

マルケ州、ウルビーノ近郊のカーイ(Cagli)在住。1999年渡伊、ファエンツァの国立美術陶芸学校の陶彫刻科を卒業後、現代美術アーティストBertozzi&Casoniのもとでアシスタントとして12年に渡ってコラボする。2003年にマルケ在住のイタリア人と結婚したのをきっかけに、マルケ州の郷土料理や工芸、美術文化に強く惹かれ、自らも陶芸家として活動する中、ウルビーノを中心とするマルケ北部や県境近郊の食文化、美術工芸文化を発信する(ラファエロの丘から)を立ち上げ、現地アテンドや料理教室、工芸体験などのオーガナイスや、ウルビーノを紹介する記事などを執筆。http://www.collinediraffaello.it/

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