エッセー, ヤマザキマリ
COLUMN
LIFESTYLE 09 Aug 2018

結婚に縛られず一度きりの人生を謳歌したいイタリア男性式恋愛事情|ヤマザキマリさんのイタリアエッセー

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イタリア人のメンタリティは基本的にカトリックの倫理観がベースになっていますが、彼らが結婚式で神を前に誓う“生涯の愛”も、時には限界を来します。日本でもやたらと有名人の不倫がマスコミで取り沙汰されていますが、既婚者が相手とは違う人を好きになってしまうことはイタリアでもしょっちゅうです。

統計で見るとイタリアの離婚率は世界の中でも1%に満たず(日本は1.8%)、その数値だけ見るとさぞかし円満な家族関係が保たれている国という印象を受けますが、低離婚率の理由のひとつはまず離婚手続きの面倒臭さが起因しているようです。以前であれば手続き等含めて5年掛かるといわれていた離婚が、今でこそ半年に短縮されたとはいえ、やはり離婚を終結させるには相当な精神力を要します。

なので、夫婦仲が円満に保てなくなった人達はとりあえず別居をし、婚姻関係を保ったままの選択をするひとも少なくありません。従って、言わば結婚をしていながら他のパートナーを持つ“不倫率”も高くなると言えるでしょう。

italia

ちなみに私が14歳での欧州ひとり旅の最中に出会い、その後私をイタリアへ招聘したマルコ爺さんとその妻は、彼らが暮らしていた地域における「史上初の離婚夫婦」となりました。妻であるアントニアはもう幼いときからの許嫁で、マルコ的には強い恋愛感情があったわけではなくても結婚はして、子供も3人もうけました。しかし、もともとその村一番の色男だったマルコは、所帯を持った後もあちこちでのお手つきが止まらず、ふたりはとうとう50歳を過ぎてから離婚を決断したのだそうです。

ちなみにこのアントニアは、毎週日曜日に教会の礼拝には必ず出かけるほどの敬虔なカトリック信者で、とにかく不浄な愛などテレビドラマであっても許せないような人でした。にもかかわらず、よく30年も浮気癖のある男性と一緒に過ごしてこれたものだと思いますが、アントニアは90歳を越え、様々な記憶がぼんやりしていた時であってもマルコ爺さんの話しになれば「あのけしからん女好きめ!」とカッと目を吊り上げ、思いつく限りの悪態をあの世の元夫に対して噴出させていたものでした。

マルコ爺さんに限らず、既婚者のイタリア人男性には、心惹かれる魅力の対象にあえて抑制を掛けない傾向が強いように思われます。イタリアをゆっくりひとり旅などしたことのある女性であれば、どうみても既婚者風の年輩男性からウィンクをされたり、言い寄られたりした経験があるのではないでしょうか。妻子があっても、あなたと恋愛モードにチェンジするスタンバイはいつでもできています、と言わんばかりの雰囲気の人は確かに他国に比べてイタリアには多いように感じられます。

若い頃は情熱一途で相手に対して「君こそ全て」と結婚をしても、家庭を持ち、子供を持ち、一家の錘(おもり)的存在であるマンマとして君臨するようになる妻に、家族としてのリスペクトは感じても当初の胸ときめかせる切ない恋愛感情を呼び覚ますのは確かに難しいでしょう(まあこれはどこの国の人でも同じでしょうけど)。そんなとき、彼らは自分の中で栄養不足で悶えている情熱や恋愛への欲求を無視したりはしないのです。妻から離れる勇気は持てなくても、妻にバレたらという恐怖心はあっても、妻以外の誰かを想って胸を高鳴らせる喜びまで抑えることはしないのです。

イタリア人は、男性でも女性でも誰かを好きになるとじっと黙ってはいられない人種です。禁断の恋であっても、好きになった人がいれば周りの人にはその相手を紹介し、絶讃し、自分が今どれだけ幸せなのか、どれだけ人生バンザイなのかを惜しみなく放出させてしまいます。それに対して周りは「あーあ…」と思いつつも、あえて野暮な倫理的アドヴァイスをしません。普遍性や信用の脆さを歴史によって存分に習得してきたことが影響しているのかもしれません。何より神父様のスキャンダルもあれこれあるような国ですから、キリスト教的倫理観はそれほどの効力を持たないのでしょう。

ちなみに女性の既婚者が不倫をするというパターンは男性に比べて極端に低いような印象がありますが、要は自分の子供達が情熱全ての対象となって彼らの存在だけで十分満たされるので、それ以外の感情の無駄遣いはしない、ということなのかもしれません。

何はともあれ、イタリアでは有名人が禁断の恋愛関係を築けば日本と同じく女性が読むようなゴシップ週刊誌やネットでは取り沙汰されますが、テレビという電波やメジャーな雑誌でそういった恋愛情事がわざわざ論議されるようなことは余程でない限りありません。首相でありながらあれこれ女性関係が凄まじく、あげくそんな自分に都合良く法まで変えようとしたベルルスコーニの場合は別ですが、著名人の不倫のひとつやふたつやみっつはもう騒ぎ立てる程の事でもないのです。先述したように、人間や社会における普遍性や信用の脆さ、という概念が定着している人達にとって、やはり不倫ネタは視聴率を特別上げる要素にもならないのでしょう。

【ヤマザキマリさんのイタリアエッセー 連載一覧はこちら】

【初出:この記事は2018年2月20日、初公開されました@AGARU ITALIA】

WRITER PROFILE
ヤマザキマリ Mari Yamazaki
ヤマザキマリ Mari Yamazaki

1967年、東京都生まれ。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。1997年、漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)、『スティーブ・ジョブズ』(講談社)、『プリニウス』(とり・みきと共作、新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て、現在はイタリア在住。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。現在、新作『オリンピア・キュクロス』(集英社グランドジャンプ)連載中。

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