イラスト イタリア 結婚観
COLUMN
LIFESTYLE 27 Jul 2018

アモーレの国イタリアにおける結婚のありかたは変化している|ヤマザキマリさんのイタリアエッセイ

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イタリアの伝統的な結婚への意識

地域差があるとはいえ、イタリアでは最近結婚をせずに同棲生活のまま子供を産んで育てる家族が増えています。
私の義妹もそう。
ある日、親族が集まる日曜日の食事会の席で、義妹と彼氏が「実はここでみなさんに発表があります」といきなり切り出したので、我々のほとんどが条件反射的に「ああ、結婚するのだな」と察し、にやけていました。

なので、彼らの口から「僕たちに赤ちゃんができました!」という思いがけない報告が飛び出したときは、皆一瞬押し黙り、おめでとうのかわりに「えーっ!?」と心底から驚きの声を上げました。
皆が驚いたのは彼らに赤ちゃんが出来たことにではなく、結婚もせずに赤ちゃんができたことを、躊躇も無く堂々と大勢の前で発表したこの2人の態度に対してだったと言って良いでしょう。

italia

2017年現在のイタリアでは国教制が廃止され、国家の非宗教制が憲法の最高原理とされています。
しかし、未だに国民の日常生活や考え方にはカトリックの教えが色濃く滞っており、未婚で赤ちゃんを生むのは世間体的に勇気がいることだと言えます。

そして一度結婚をしてしまうと離婚も容易ではなく、どちらか一方が離婚を認めたくなければ必ず裁判所で審理され、最後には宗教離婚の手続きも必要になります。かつては離婚には5年の別居期間が必至とされていたのが、やっと近年になってそれが半年に縮められたにせよ、とにかく別居期間無しでの離婚は認めてもらえません。

家族のありかたを改めて考え直すための別居なのかもしれませんが、離婚を心に決めたにも関わらず、いろいろ面倒になって結局元さやに戻った家族を私もいくつか知っています。
たとえどんな事情があろうと、一度作った家族は簡単に壊してはいけないというキリスト教的観点からしてみれば「しめしめ」という顛末でしょう。

そんなこともあってなのか、最近のイタリアの若者達は将来のビジョンに対して、至ってクール。どんなに情熱的でも、どんなに付き合っている相手のことを無限大に愛していても、長い人生今後どうなるかわからない、何年後かにまた別に好きな人ができてしまうかもしれないし、独りになりたくなるかもしれない、という可能性をお互い敢えて隠そうとはしません。

結婚する前と結婚した後

イタリアでは、グラマラスさを強調させたセクシーな女性を起用した企業広告を街中で目にする率が他国よりも圧倒的に高いです。イタリア人の夫に言わせると「あれは、一生離れられない妻に食傷気味になってしまった男たちの悲しい願望を汲み取ったもの」なのだそう。

彼曰く、イタリア女性は結婚して子供を生み、子育て期間に入ると皆“マンマ”(ママ)になります。あまりにも強烈にマンマ・オーラを放ち始めるので、男は手を出せなくなるのだとか。

あながちこれを夫の私見と捉えられないのは、実際子供を生んだ義妹は今やマンマと女王を合体させたような無敵のパワーを放出しており、相手の男性がいかんせん萎縮気味になってきているのを、私も目のあたりにしているからです。

確かに以前までの可憐さは今の義妹にとっては殆ど不必要なものとなり、子育てに全身全霊で奔走する逞しさがみなぎっています。
そんな様子を見ながら、2人の独身の友人たちも自分たちの将来について考え直すことになるのでしょう。

子育てを理由に扱き使われている彼に対し「結婚をしなかったのは賢明だったな」と心の底で思っている人もいるはず。
アモーレの国イタリアにおける結婚のありかたは、そんなわけで徐々に変化しつつあるのです。

【ヤマザキマリさんの連載記事一覧はこちら】

【初出:この記事は2017年11月14日に初公開されました@AGARU ITALIA】

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WRITER PROFILE
ヤマザキマリ Mari Yamazaki
ヤマザキマリ Mari Yamazaki

1967年、東京都生まれ。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。1997年、漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)、『スティーブ・ジョブズ』(講談社)、『プリニウス』(とり・みきと共作、新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て、現在はイタリア在住。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。現在、新作『オリンピア・キュクロス』(集英社グランドジャンプ)連載中。

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