メゼババ
COLUMN
FOOD 07 Aug 2018

❝italianità❞を得るために 東京・亀戸「メゼババ」シェフ高山大 Vol.3【イタリアに焦がれて】

松浦 達也 Tatsuya Matsuura
SHARE

【連載第1回】歓喜と悶絶のカウンター 東京・亀戸「メゼババ」シェフ高山大 Vol.1【イタリアに焦がれて】
【連載第2回】❝furbizia❞と❝italianità❞ 東京・亀戸「メゼババ」シェフ高山大 Vol.2【イタリアに焦がれて】

日本でイタリアの料理をつくる難しさ

高山が自身の「イタリア化」を完了させたのはメゼババをオープンさせる2013年の頃だった。日本への帰国後も、意識やインプットのアンテナをイタリアの方へと向けていたが、独立前後から、意識や発想を自分でコントロールできるようになったという。つまり、意識的に「イタリア」というスイッチを入れられるようになったのだ。

「『イタリア人だったらこうする』という確信めいた発想が、日本で暮らしながら自然にできるようになったんです。イタリアでイタリアの料理をつくるのは、誰にとってもそう難しくないと思います。素材も調理器具も向こうのものだし、お客さんや厨房で横に立っているのもイタリア人。あの環境なら日本人でも少し意識すればイタリアらしい皿に仕上がると思いますよ」

だが日本に戻ってくるとそうはいかない。食材や調理器具、情報だって日本流にカスタマイズされている。客やシェフ仲間だって日本人だ。知らず知らずのうちに発想は日本寄りになってきてしまう。高山の「イタリア化」はイタリア人の発想と日本人の発想、その境界線を明確にするために必要な作業でもあった。

「いま僕がメゼババで出している料理って、日本人の好みとイタリアで出されるような料理の重なる、ごく狭いところを狙っているんです」

メゼババ
筆:高山大

日本人の好みをかたどる「○」とイタリアの料理の「○」、それぞれの円が重なるごく狭い部分。そこは確かに❝italianità❞――「いかにもイタリアらしい」部分でもあるが、日本人でも共感できるところ。メゼババの料理はこの狭いエリアを狙いすましている。

「日本人なら海外に行ったとき、現地の食材でもなんとなく味噌汁くらいは作れちゃいますよね。それが僕らに刷り込まれている日本人らしさ。もちろんイタリア人にもそういう『らしさ』はある。その違いが自然に、しかも明確にわからないとこのピンポイントは狙えない。だから徹底して自分にイタリアを叩き込んだんです」

イタリアの古典料理をおさらいし続ける理由

高山はいまもイタリアの古典をさらう。その教科書がこの一冊だ。

メゼババ

❝LE RICETTE REGIONALI ITALIANE❞――直訳すると「イタリアの地方のレシピ」、つまり『イタリア郷土料理レシピ集』である。1967年に初版が出版された後、2005年までの間に17版を重ね、総ページ数1,204P、総レシピ数2161点が載録されている。イタリア料理界においては知らぬもののいない名著だ。

「イタリア料理、それも古典をやってる人間なら必ず通っている一冊です。イタリア料理にとってもものすごく重要な本で、ここにイタリア20州の伝統的なレシピが書いてあります。僕も十数年前に貪り読みました。この本に出てくるレシピはほとんど頭に入っています。まあ、小池(※)あたりはこれ3冊分くらい、軽く頭に入ってると思いますけど、僕はそういう各地方のディテールを突き詰めるタイプじゃないので(笑)」

※イタリア郷土料理の伝道師とも言われる小池教之シェフ(元インカント→現オステリア・デッロ・スクード

高山はいまもメニューを考えるとき、この本を読み返すことがあるという。

メゼババ

「例えば、ちょっと迷ったときに『何かなかったっけ』って読み返したりもします。この本は古典なので、お客さんに出すときに現代風に調整はしますが、冒涜することなくイタリアに着地するようにしています。うちで出しているのは、自信を持って『これがイタリアの料理』だと言い切れる皿ばかり。例えば一般的にチーズを使わない料理にチーズを使っていいか、バジリコを使う料理で他のハーブに置き換えていいか。そうした判断で迷うような、中途半端な勉強はしていません」

イタリアにもないイタリアの料理を日本で出す。それには現地のシェフ以上の修練と覚悟が必要だ。考え抜く力と言い切ることのできる強さ。亀戸の皿の上には、高山がイタリアに渡ってから今日まで、20年かけて積み上げた❝italianità❞がある。

メゼババ
「白いんげん豆とからすみ」

(続く)

文・写真/松浦達也

【連載「イタリアに焦がれて」記事一覧】


「メゼババ」シェフ 高山大(たかやま・はじめ)
宮城県生まれ。大学中退後、奥沢の「ヴィゴレット」勤務の後、単身イタリアへ。数年間のイタリア生活からの帰国後、西麻布などのイタリア料理店を経て2013年「メゼババ」をオープン。質実剛健なイタリア料理で連夜、舌の肥えた客を熱狂させ続けている。

WRITER PROFILE
松浦 達也 Tatsuya Matsuura
松浦 達也 Tatsuya Matsuura

東京都出身。ライター、編集者。食専門誌から一般誌、新聞、書籍、Webなど多方面の媒体で幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオで食トレンド・ニュース解説も。著書に『家で肉食を極める! 肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル おうちの卵料理が見違える!』(ともにマガジンハウス)など。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター。有限会社馬場企画代表取締役。

PR

サソリ160匹、ワイナリーに放たれる —これが本場イタリア式オーナーズ・ミーティングだー

ABARTH Scorpion Magazine
PR

FIATオリジナルジェラートを、シンチェリータで召しあがれ

fiat magazine CIAO!
PR

言葉を持つ靴職人、花田優一の理想の職人像は「精神鍛錬を積んだ人」

Mondo Alfa
PR

首都高C2でアバルト595コンペティツィオーネと戯れる。

ABARTH Scorpion Magazine
PR

ルパンがフィアットを愛する理由。『ルパン三世 PART5』浄園祐プロデューサーインタビュー

fiat magazine CIAO!
PR

アルファ ロメオだからこそ作り得たSUVとは。モータージャーナリスト岡崎 五朗氏が解き明かす。

Mondo Alfa