COLUMN
FASHION 13 May 2019

錆とお酢から生まれた美しく素朴な染色、スタンパ・ア・ルージネ

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イタリアに数多くある魅力的な伝統工芸。その中にはマヨリカ焼きや絹織物のように、貴族や富豪によって生産が支えられていたものも多いですが、庶民の庶民による庶民のための伝統工芸が数多くあったのも事実です。
そんな庶民の伝統工芸の中でも、私が特に素朴な美しさが際立つ工芸だと思うのが、このスタンパ・ア・ルージネ(Stampa a ruggine)です。

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素朴な色合いが魅力の錆染め

これは直訳しますと”錆による印染め”になるのですが、その色は暖かい黄土色から茶色で、もともとは農家の女性が野良仕事の少ない冬に織っていた麻の布が染められ、家庭内で使われていました。
この染色法の歴史は古く、1700年代後半に生まれた技法だと言われています。その発祥の物語がどんなものか、一緒に覗いてみましょう。

アラベスク柄の布地に憧れた農家の女性たち

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貴族が愛した装飾柄への憧れから生まれた工芸

時は1700年代後半、産業革命後多くの新しい布製品が世に出るようになった時代です。イタリアにもアラベスク柄の美しい布が多く輸入され、貴族はこの美しい布を室内装飾にふんだんに使う、という贅沢を楽しんでいました。
それは農家の庶民にはとても手が出ない高価なもの。豪華絢爛な貴族の室内装飾に憧れる田舎の女性も多くいたことでしょう。
どんな時代でも無い物は創意工夫して作り出すのが本当の知恵。農家の女性は、錆である酸化鉄が布に接触すると繊維にしっかり結合し、染み付いてしまう特性を家庭の洗濯で良く知っていたはず。そんな厄介者の錆の特性を活かし、錆の粉を小麦粉と酢と一緒に良く混ぜ、染料にするというアイデアを生み出します。

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錆と酢、小麦粉だけで配合された染料

柄を再現するためにとても固い梨の木を利用した木型が彫られ、柄の部分に染料をしっかりと馴染ませて布に置き定着させる……昔の人々は、家庭内にあるものからこうして創意工夫で美しい布を生み出した……これは本当にすごいことですね!

動物の守護神である、大アントニウスのためのマント

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大切な家畜への感謝と労いから生まれたマント

この錆染めが庶民の生活に欠かせないものになってくると、染められるもののバラエティーも増えてゆきました。特記しておくべきものとして、農業とかかわりの深い、ある面白いものが染められるようになります。
現代のような便利な農機具の無かった時代は、とても大切な家畜だったのが畑を耕すための牛。その牛たちに敬意を示すために動物の守護神、大アントニウスをモチーフにした大型のマントが染められるようになったのです。
農家の人々が誇らしく我が牛に守護神を染め付けたマントをかけ、牛を引きながら農道を歩く姿は当時良く見られた光景だったそうで、その様子は古い白黒の写真からも伺うことができ、古き良きイタリアの牧歌的な情景がどこか懐かしさを誘います。

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家庭で使われるクロスなどが人気を博す

1800年代も後半になるとこの錆染めが伝統工芸として定着し、エミリア・ロマーニャ州からマルケ州北部まで数多くの工房が生まれ、キッチンのリネンやエプロンなどを中心とした数多くの製品が製造されるようになるのです。

イタリアで唯一のマングルが見られる、スタンペリア・マルキ

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落ち着いた店構えのマルキ

数多くある錆染めの工房の中でも、著者のお気に入りの工房をちょっと紹介してみたいと思います。
1つは、エミリア・ロマーニャ州のサンタルカンジェロ・ディ・ロマーニャというとても可愛い街にある工房、スタンペリア・マルキ。ここは品のいい商品の品揃えだけではなく、イタリアでたった1つのマングルという機械を当時の状態と同じように見ることが出来るのです。
マングルとは、繊維加工に使われる機械の1つで、普段は圧迫した2つのローラーの間に布地を通すことで、布をやわらかくしたり、独特の風合いを出すための加工の1つです。1633年に工房とともに作られたこの機械は、大型の回し車の中に人が入り、中から歩行することによって回し車を回転させ、その動力でマングルを動かすというもので、現在でも約400年前と同じ方法で使われており、回し車によってマングルが動く光景は、思わず感嘆せずにはいられない、本当に珍しいものです。

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工房内は撮影禁止のため葉書で紹介

工房は予約して見学が可能ですので、ぜひ皆さんにも見ていただきたい歴史ある工房の1つです。

好きなものを染める体験が可能な、アンティカ・スタンペリア・カルペーニャ

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5代目のエマヌエレは若いが信念を持った職人さん

マルケ州最北端にある山間の小さな町、カルペーニャ。世界遺産の街ウルビーノとも縁があり、モンテフェルトロ一族の発祥の地と言われているモンテフェルトリア山からもほど近い、自然に囲まれた美しい町です。
ここで5代にわたって錆染めの工房を守り続けてきた小さな工房、アンティカ・スタンペリア・カルペーニャ
現在は5代目の若い当主、エマヌエレさんが工房を取り仕切っているのですが、ここは数ある錆染めの工房でも、訪問者が自分の好きな物をワークショップで染められるとても珍しい工房です。

1000種類近くある型の中から自分の好きな柄を選び、エプロンやテーブルクロスを染めるという体験は、単に工房を訪問して製品を買うだけでは味わえない、オリジナルの作品を作る喜びがあります。イタリア語でエマヌエレさんが丁寧に説明してくださるので、語学に自身のある人はぜひ挑戦されてみては?! と思います。とっても素敵な旅の思い出が出来ること間違いなしですよ!

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数多くある型から好きな柄を選ぶのは本当に楽しい

いかがだったでしょう?
農家の人々の工夫から生まれた素朴で美しい染物の魅力を堪能しに、皆さんもぜひこの2つの街を訪れて、大観光地では味わえない手仕事に触れてみることをお勧めします。

スタンペリア・マルキ(Stamperia Marchi)
住所 :Via Cesare Battisti, 15, 47822 Santarcangelo di Romagna RN
電話:(39)0541-626018
営業時間:
夏季営業
月、火、水、金、土曜9:30~12:30、16:00~19:30 木曜9:30~12:30 日曜・定休日
冬季営業
月、火、水、金、土曜9:30~12:30、15:30~19:00 木曜9:30~12:30 日曜・定休日
アンティカ・スタンペリア・カルペーニャ(Antica stamperia Carpegna)
住所: Via Pieve, 4, 61021 Carpegna PU
電話:(39)333-362-9293
営業時間:月~金曜 8:00~12:00、14:00~18:00
定休日:土、日、イタリアの祝日
WRITER PROFILE
林由紀子
林由紀子

マルケ州、ウルビーノ近郊のカーイ(Cagli)在住。1999年渡伊、ファエンツァの国立美術陶芸学校の陶彫刻科を卒業後、現代美術アーティストBertozzi&Casoniのもとでアシスタントとして12年に渡ってコラボする。2003年にマルケ在住のイタリア人と結婚したのをきっかけに、マルケ州の郷土料理や工芸、美術文化に強く惹かれ、自らも陶芸家として活動する中、ウルビーノを中心とするマルケ北部や県境近郊の食文化、美術工芸文化を発信する(ラファエロの丘から)を立ち上げ、現地アテンドや料理教室、工芸体験などのオーガナイスや、ウルビーノを紹介する記事などを執筆。http://www.collinediraffaello.it/

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