FASHION 14 Jun 2018

イタリアの男性ファッションのこれから【後編】/ゲスト:前田陽一郎さん(「LEON.JP」編集長) | シゲノリ・サローネ

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エディターの濱口重乃(ハマグチ・シゲノリ)さんをホスト役に、イタリアのデザイン(ファッション、インテリア、プロダクト)やカルチャーに精通するゲストをお招きしてトークを繰り広げる対談スタイルの連載「シゲノリ・サローネ」。「LEON.JP」編集長の前田陽一郎さんをゲストに迎えた対談の「後編」です。

対談構成:梅森 妙、「SHOP ITALIA」編集部

前編、中編はこちら↓
イタリアの男性ファッションのこれから/ゲスト:前田陽一郎さん(「LEON.JP」編集長)【前編】
イタリアの男性ファッションのこれから/ゲスト:前田陽一郎さん(「LEON.JP」編集長)【中編】

italia

ゲスト:前田陽一郎さん 「LEON.JP」編集長

Yoichiro Maeda

1969年、三重県生まれ。大学在学中からライターとして男性・女性ファッション誌に関わる。大学卒業後、乃村工藝社に入社し、空間デザインの仕事をしながらフリーのイラストレーターとしても活動。1995年より祥伝社「Boon」の編集を手がける。2006年より「LEON」編集部に入り、副編集長を経て2011年10月より編集長。2017年3月よりレオン・コンテンツ事業室室長に就任、「LEON」ブランディングマネージャー兼WEB「LEON.JP」編集長をつとめる。

イタリア男がおしゃれな理由

濱口:イタリアの男性って本当におしゃれじゃない。あれ、なんでだと思いますか?

前田:教育じゃないでしょうか。ジローラモ(「LEON」専属モデルをつとめるイタリア人タレント)から聞いたんですが、彼はすごくシャイな人なんですけど、子どもの頃から、お父さんに「毎日、女性に声をかけろ」と言われたそうです。同じクラスの女の子に「髪型変えた?」とか、すれ違う女性に対して「いい匂いですね」とか、なんでもいいから、とにかく女性に話しかけろと。「そうすることでお前の未来が開けていくんだよ」と教わったそうです。

濱口:それは、いい話ですね(笑)。

前田:イタリア男性は女好きってよく言われていて、実際そうなんですけど、人とコミュニケーションをとるということを徹底的に子どもの頃からしつけられていてるんでしょうね。さらに「自分がどう見られているのかということをつねに意識しろ」って言われるんですって。

これは僕の推測ですけど、近代のイタリアって、裕福だった時代がないんですよ。ローマ帝国時代は別として、国家としてのイタリアになってから、世界でトップになったことって一度もない。いわゆる先進国と呼ばれる国って、経済だったり産業だったり、戦時中なら武力だったり、何かしらの領域でトップになってるんですよね。だけどイタリアは、一度たりとも富裕であったことがないという国なので、結局、自分たちのアイデンティティを「美意識と歴史」というところに求め続けるしかなかったんじゃないかなと僕は思っていて。

濱口:ここ最近もずっとイタリアは景気悪いし、大丈夫かなと思ってミラノやローマへ行ってみると、みんな暮らしを楽しんでいるようで、ゴキゲンなんですよね。日本人よりずっと幸せそうにしてる。

前田:イタリアは貧しいと言われているけれども、むしろリラだった頃は仕事しないでも食べていけてたって言われますからね。ユーロになって国際社会にとり込まれてしまったことで、一生懸命働かなきゃいけなくなったって。それに、イタリアには精神病院がないというのが彼らの自慢ですからね(1978年公布の精神保健法、通称「バザリア法」により、精神科病棟の新設や新規入院は禁止されており、地域の保健施設で治療やケアを行う)。

濱口:それ、すごいね。

前田:それでも今、急速に問題になっているのは、自殺者の増加らしいですね。イタリアは先進国の中で自殺者数が低かったんですが、国際化の競争に勝てなくて、代々続いていた家内制の工場を閉めざるを得なくなったり、従業員を解雇しなければいけなくなっている。イタリア人にとって、自分たちが今までやってきた工場や工房を閉じることほど辛いことはないんです。それで、自殺する人がすごく増えてるそうです。

濱口:そうなんですか、知らなかった。ファッションのビジネスを見ても、家内制手工業からうまく脱皮して国際化の波に乗れたブランドは成功してるんだけど、そうじゃないところは厳しいですね。

前田:ちなみに、イタリア人だってみんながおしゃれなわけじゃないですよ。イタリア人に言わせると、日本人のほうがおしゃれだって言うんです。たとえばあるイタリア人デザイナーに言わせると、日本は本当にアイディアの宝庫だと。イタリア、フランスとかのありとあらゆるカルチャーを飲み込んで、それを自分たちなりに解釈して、イタリアンスタイル、フレンチスタイルをつくりあげちゃう。ヨーロッパ人からすれば、それぞれの文化って本来もっと複雑なものなんだけど、日本人は表層的なところだけを切り取るのがうまい。それが逆にヨーロッパ人から見たら、すごく面白いものができ上ってるんですって。ファッションだけでなく、「食」もそうですよね。日本人のフィルターを通してアウトプットされたものは、まったくの別物になってるから、すごく勉強になるって言ってましたね。

italia

ホスト:濱口 重乃さん

1968年、東京都生まれ。平凡社のグラフィック誌「月刊 太陽」から編集者のキャリアをスタートし、文藝春秋ではライフスタイル誌「TITLE」編集長、コンデナスト・ジャパンでは男性誌「GQ Japan」編集長、ハースト婦人画報社ではインテリア誌「ELLE DECOR」編集長をつとめ、2017年よりハーパーコリンズ・ジャパンのシニア・エディトリアル・ディレクター。

イタリア車は原点に戻る?

濱口:前田さんはクルマやバイクにもすごく詳しいんだけど、イタリアのクルマ業界はどうなんですか?

前田:昔は「イタリア車は美しいけど壊れる」とされていましたけど、今は世界で戦わなければいけなくなって、性能は安定しましたけど、それと引き換えにデザインまで均一化しつつありますね。とすると、何がイタリア車たらしめているか。

面白いと思っているのがフェラーリの動きです。フェラーリって、今は大きく3つの部門に分かれていて、ひとつは「スペチアーレ」と呼ばれるオーダーも含めたスペシャルモデル、もうひとつは「スポーティ」と呼ばれるスポーツカー部門、もうひとつは「GT」という主に4人乗り部門です。このGT部門に力を入れ始めてて、GTに関してはテストコースでのラップタイムを公表してない。なぜなら、GTカテゴリーはライフスタイルカーだから、サーキットのラップタイムを公表することに意味がないと。これは面白いなって思っていて。フェラーリって、もともとはお金持ちがレースをするための美しい車をつくって売って、それを資金としてレースをして、そのレースに勝ってブランド価値をつくって、また美しいものをつくるというサイクルだった。

濱口:レースが中心になってた。

前田:美しいことが何よりも大事で、その一方で速くなければいけないということでスピードが求められた。これがある時から、全部がレースみたいなイメージになっていったけれど、もう一度原点に戻って「フェラーリは美しいライフスタイルの小道具なんだ」というところへ向かおうとしているのであれば面白そうだな、と。

アルファロメオにしても、ジュリア・スーパーが「2017カー・オブ・ザ・イヤー」(アメリカの自動車雑誌『Motor Trend』主催)を獲得していて、美しい車をつくれる土壌はあるはずなので、そこは期待したいなと思っています。

これからの編集者の仕事とは

濱口:ところで、前田さんは2017年に紙の雑誌からデジタルに移られたわけですが、メディアやコンテンツの未来についてはどんなふうに考えてますか?

前田:僕たち編集者がいるのは、メディア産業じゃなく、コンテンツ産業なんだというふうに意識を変えていかないといけないと思ってますね。メディアをつくるのはもう技術屋の時代になってしまったので、僕たちはコンテンツメーカーでしかない。そこで大事なのはやはり、あらゆるメディアを駆使したブランディングだと思います。

濱口:前田さんから見て、ここは成功してるなって思うのはあります?

前田:たとえば「National Geographic」とか。「ナショジオ」が好きで、20年くらい定期購読してるんですけど、僕にとっては、雑誌がブランドになることの成功例ですね。テレビのコンテンツもつくれるし、Tシャツやグッズ、ステッカーも販売できる。もちろんInstagramもすごく美しい。

「PCにそのロゴのステッカーを貼りたいかどうか」が、ブランドかどうかを判断する僕の個人的な判断基準なんです。あらゆるメディアにコンテンツをのせていく、そのおおもとにあるブランドをつくっていくことが、これからの編集者の仕事だと思ってますね。

前編、中編はこちら↓
イタリアの男性ファッションのこれから/ゲスト:前田陽一郎さん(「LEON.JP」編集長)【前編】
イタリアの男性ファッションのこれから/ゲスト:前田陽一郎さん(「LEON.JP」編集長)【中編】

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対談した場所は東京・表参道「トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ」。
前田陽一郎さんが「イタリアの空気を感じるお店」としてオススメしてくれたのがこちら。
シチリアの郷土料理とワインが揃い、活気あふれるお店です。
トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ https://hitosara.com/0006038998/

WRITER PROFILE
濱口 重乃 Sigenori Hamaguchi
濱口 重乃 Sigenori Hamaguchi

慶應義塾大学経済学部卒業。1994年平凡社に入社し、グラフィック誌「月刊 太陽」の編集に携わる。2001年文藝春秋に入社。女性誌「CREA」のデスクを務めた後、2005 年ライフスタイル誌「TITLE」編集長に就任。2008年コンデナスト・ジャパンに移籍し「GQ Japan」編集長に就任。フリーランス編集者を経て、2013 年ハースト婦人画報社にエディトリアル・アドバイザーとして入社。2014年インテリア&ライフスタイル誌「ELLE DECOR」編集長に就任。2017年7月よりハーパーコリンズ・ジャパン シニア・エディトリアル・ディレクター。

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