フィレンツェ 麦わら帽子
FASHION 31 Aug 2018

イタリアの小さな村から生まれた世界の一流品 フィレンツェの麦わら帽子

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ファッション産業でイタリアの帽子の輸出額は前年比17%

2017年12月、イタリアのファッション界に衝撃が走りました。高級帽子ブランド「ボルサリーノ」の経営破綻です。翌2018年7月、すでに同社の商標権のみを取得していた投資会社が子会社化することで債権の道筋が見えたものの、160年の歴史をもつ老舗の倒産でした。最大の原因は不適切な経理とされていますが、ファッション趣向の変化に伴う帽子需要の減少も浮き彫りにしました。

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フィレンツェ県シーニャの老舗帽子工房「ラファエロ・ベッティーニ」にて。歴代作品が収蔵されたアーカイブ。

それでもイタリアには145の帽子工房が存在し、とくに輸出額は前年比17%増の1億600万ユーロを記録しています(2017年1-9月。出典 : Tessilivari.it)。 この国のファッション・インダストリーにとって重要な品目であることに変わりありません。とくに、麦わら帽子は、キャップと並びイタリアの帽子産業にとって主要なプロダクトです。

カスタマー視点からも、麦わら帽子はラフに使えて手軽に清涼感を演出できるため、おしゃれに欠かせません。なかでもファッショニスタたちが、ワンランク上の装いにチョイスするモノといえば、ずばり「フィレンツェの麦わら帽子」です。

イタリア農家の片手間仕事が世界を魅了するまで

なぜフィレンツェで麦わら帽子がつくられるようになったのか。その歴史は18世紀初頭の、フィレンツェ旧市街から西に約15kmの町シーニャに遡ります。同地はアルノ川流域の肥沃な土壌により、古くから小麦栽培が行われてきました。それはパン用でしたが、貧しい農民たちは麦の穂を摘んだ後に残る藁(わら)さえも無駄にしませんでした。茎の部分を数本ずつ束ねてテープ状に編み、麦わら帽子に仕立てたのです。

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1925年に撮影されたシーニャ村。女性たちが麦わらを仕立てる下準備として、藁の茎を整えているところです。(写真提供:Museo della Paglia e dell’Intreccio)

しかしパン用の小麦には茎が短いという問題がありました。帽子を編むためには、茎を頻繁に継ぎ足さなければならなかったのです。地元の農学者ドメニコ・ミケラッチは、そうした農民の苦労を目にしていました。「帽子用に特化した小麦があれば、作業効率を向上できるはずだ」。そして1718年、ミケラッチが4年を投じた品種改良は実を結び、長い茎と柔軟性を備えた編みやすい小麦が誕生します。さらに後年ミシンが導入されると、シーニャの産業は農業から帽子生産へと一気に軸足を移していったのでした。

シーニャの麦わら帽子はアルノ川を使って80km下ったリヴォルノ港まで運ばれていました。そこから地中海を経てフランスやイギリスなど欧州だけでなく、遥か遠くのアメリカ大陸にまで輸出されました。

手作業を重んじた高品質と、イタリアらしいスタイリッシュなフィレンツェの帽子は、たちまち世界中の人々を魅了していきました。今日でも英語で、麦わら帽子がレグホーン(Leghorn = Livorno)と呼ばれるのは、船積み港であったリヴォルノに由来するためです。

19世紀には、フランスの劇作家がイタリアの麦わら帽子を題材にした作品を発表。それは第二次大戦後、映画『ゴッドファーザー』のサウンドトラックで知られるイタリア人作曲家ニーノ・ロータによって『フィレンツェの麦わら帽子』という名でオペラ化もされています。

イタリア製帽子に刻まれる夏の思い出

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「ラッファエロ・ベッティーニ」の工房で1960年代に使用されていた帽子の木型。上に載っているのは縫い上げる前の麦わらのテープ。

今日もシーニャには、いくつもの帽子工房が存在します。2018年で創業80年を迎えた「ラファエロ・ベッティーニ(Raffaello Bettini)」もそのひとつです。初代は14歳から腕を磨き、のちに自らの会社を興した人物でした。現在は3代目のジョヴァンニ氏と彼の子息が職人たちを率いています。

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「ラッファエロ・ベッティーニ」の熟練職人による縫製作業。ミシンの速度を調整しつつテープを操り、頭頂部分からつばまで一気に縫い上げます。

工房を訪れてみると、カタカタとミシンを踏む音が響いていました。職人が1個の帽子を仕上げるのに要する時間はおよそ15〜30分。藁でできたテープをスピーディーに縫い合わせていきます。平坦なテープを操りつつ頭頂から側面へと自然な立体曲面をかたちづくるのは、まさに匠の技。被り心地の良さは、ここから生まれるのです。

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祖父ラッファエッロ・ベッティーニが興した工房を継ぐ、3代目オーナーのジョヴァンニ・パピーニさん。夫人のアレッサンドラさんも、別の老舗帽子メーカーの家で育ったといいます。

2018年夏のフィレンツェは北アフリカからの熱波が吹き荒れ、たびたび40℃近い暑さを記録しました。そうしたなかでも花の都を訪れた旅人たちは、手に入れたばかりの麦わら帽子を相棒にしていました。これから幾度夏がやってきても、彼らはクローゼットから帽子を取り出して、イタリアの太陽と、そこでのヴァカンスに思い出を巡らすことでしょう。

INFORMATION: 
Raffaello Bettini https://raffaellobettini.it

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(3点とも)「ラッファエロ・ベッティーニ」のメンズコレクションより。

WRITER PROFILE
大矢 麻里 Mari Oya
大矢 麻里 Mari Oya

イタリアコラムニスト。東京生まれ。短大卒業後、幼稚園教諭、大手総合商社勤務を経て1996年からトスカーナ州シエナ在住。現地料理学校での通訳・アシスタント経験をもとに執筆活動を開始。NHKテキスト『まいにちイタリア語』『朝日新聞デジタル』などに連載多数。NHK『マイあさラジオ』をはじめラジオでも活躍中。著書に『イタリアの小さな工房めぐり』(新潮社)、『意大利工坊』(馬云雷訳 華中科技大学出版社)、『ガイドブックでは分からない 現地発!イタリア「街グルメ」美味しい話』(世界文化社)がある。

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