ヤマザキマリ
COLUMN
FASHION 09 Aug 2018

日本のメンズ雑誌が唱える「ちょいワル」イタリア男のファッション嗜好は果たして真実なのか?|ヤマザキマリさんのイタリアエッセー

SHARE

日本のメンズ雑誌が唱える「ちょいワル」イタリア男のファッション嗜好は果たして真実なのか?

数年前の6月、長らく暮らした懐かしのフィレンツェに仕事で数日間滞在したときのこと、丁度 “ピッティ・ウォーモ”というメンズファッションの見本市が開催されていました。
年に2度催されるこの見本市の期間、フィレンツェには世界中のファッショニスタやおしゃれプロフェッショナルな男たちが集合します。

ある日突然、街中におしゃれな男たちの人口が増えるので、フィレンツェの人たちは逆に「ああ、今ピッティ・ウォーモ期間中なんだな」と気付かされるわけですが、会場を出入りする人たちの様子を見ていると、確かにそのエレガントで捻りのきいた装いの競演には圧倒されるばかりです。

動物の世界では基本的に雌よりも圧倒的に雄が派手ですし、古代や中世、ルネサンス時代くらいまでは、人間の男たちの装いにも女性を凌ぐパンチ力がありました。

近代になって西洋の男たちの装いは徐々に控えめになっていくわけですが、その控えめな中にも今度はどんな粋な演出を凝らすか、イタリア男たちはイギリスやフランスの男たちともまた違った、彼らなりの独自の着こなしを作りあげていったのです。

そんな国に対するリスペクトの意味もあるのでしょう、たまにイタリアの街中でおしゃれスカーフを首に巻いたり、おしゃれ帽子を被ったり、裸足に革靴を履くなり、よく日本のおしゃれメンズ雑誌の外国人モデルのような着こなしをして歩いている、ファッションに力の入った日本の男性たちを見かけることもあります。

しかし、果たしてイタリア男たちは誰しもが、日本のメンズ雑誌で紹介されるようなおしゃれな着こなしを日常でもしているのでしょうか?

少なくとも私の周りには、そんな男はひとりもいません。

夏であってもシャツの下にはランニング下着は必至、靴下もしっかり履いています。
昨今では中年のおじさんでもおしゃれTシャツに高そうなジーンズというコーディネートがよく見受けられますが、その反面で、Tシャツにジーンズという装いをだらしないと捉える保守的な男性もいます。
シャツの裾は必ずパンツ・イン、という人も少なくありません。
女性同士の会話でも、その場にいない誰かを指すのに「ほら、あの、ピッティ・ウォーモみたいな人よ」という形容が使われていたこともありました。

メンズ雑誌で見かけるようなおしゃれに力の入った男たちは、イタリアでも実はちょっと特別視されていたりするのです。

イタリア風メンズファッション、実は日本発だった?

数年前、先述のピッティ・ウォーモにも毎年出向いているという、とある日本のファッション業界関係者から衝撃的な発言を聞いたことがありました。

今や世界におけるイタリア式メンズファッションのお約束ともいうべき裸足に革靴。
あれは、実はもともと、日本の男性がやっていたことだと言うのです。

それを目のあたりにしたとあるイタリア男性が「あれはいい! かっこいい!」とマネをしたみたところ、忽ち周囲の男性たちもスーツ姿に裸足で革靴を履くようになり、それがいつの間にかイタリア男流の靴の履きこなし、と解釈されるようになったと言うのです。

ヤマザキマリ

真相はわかりません。わかる術もありません。

でも、確かに言われてみれば、裸足で靴を履くという行為は西洋人的発想としては無理があり、本来草履や下駄文化だった地域の人の考えること、っぽくはあります。
インドやアラブ圏の暑い国でもよく民族服の男性が裸足に革靴を履いていたりしますが、それをおしゃれだなと感じたことは一度もありません。
しかし、イタリアのピッティ・ウォーモに集まる男性たちの装いの一部分となると、裸足に革靴もおしゃれ以外の何ものでもなくなるのだから不思議です。

中途半端に薄くなりつつある頭を気にするくらいなら、潔くスキンヘッドにしてしまったほうが粋と捉える、そんなイタリア男のおしゃれ装いのポイントは、要するに服装やコーディネート云々ではなく、それを着こなしている“俺”という人間力というか、自我オーラにあるのかもしれません。

かといって、シャツの下にランニング下着+パンツ・インのイタリア男も、マンマにしっかりアイロンを掛けてもらったブリーフを履いているイタリア男も、靴下を履かずに革靴なんか履いたら靴擦れするし臭くなるだろ!? と訴えるイタリア男も、美意識に対して全く関心が無いかというとそうではありません。
彼らは彼らなりに、それでもどこか他の国の人にはマネのできないセンスがあるように見えるのは、やはり服に着られない、服に屈しない、唯一無二の“俺”という主張性の結果とも言えます。

いずれ日本のメンズ雑誌で、一見おしゃれでもなんでもない地味目なイタリア親父の、でも実はここが凄い! みたいな特集をしてみてもらいたいですね。

【ヤマザキマリさんのイタリアエッセー 連載記事の一覧はこちら】

【初出:この記事は2018年4月13日、初公開されました@AGARU ITALIA】

WRITER PROFILE
ヤマザキマリ Mari Yamazaki
ヤマザキマリ Mari Yamazaki

1967年、東京都生まれ。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。1997年、漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)、『スティーブ・ジョブズ』(講談社)、『プリニウス』(とり・みきと共作、新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て、現在はイタリア在住。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。現在、新作『オリンピア・キュクロス』(集英社グランドジャンプ)連載中。

PR

イタリア人を笑顔にする車、チンクエチェント・ヴィンテージ|FIATオーナー紹介

fiat magazine CIAO!
PR

モードとアバルトの美しき共通項 ピッティ・イマージネ・ウオモ95 現地リポート

ABARTH Scorpion Magazine
PR

サソリ160匹、ワイナリーに放たれる —これが本場イタリア式オーナーズ・ミーティングだー

ABARTH Scorpion Magazine
PR

FIATオリジナルジェラートを、シンチェリータで召しあがれ

fiat magazine CIAO!
PR

言葉を持つ靴職人、花田優一の理想の職人像は「精神鍛錬を積んだ人」

Mondo Alfa
PR

首都高C2でアバルト595コンペティツィオーネと戯れる。

ABARTH Scorpion Magazine