COLUMN
CULTURE 25 Jun 2019

イタリアのハーブの歴史を肌で感じる! 薬草学の神殿「アボカミュージアム」

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こんにちは!
皆さんはイタリアとハーブ、と聞いてどのような繋がりがあると思いますか? 地中海料理、バジルたっぷりのジェノヴェーゼソース、パセリにオレガノ……これらの王道となったイメージももちろんそうですが、実はイタリアにはとてもとても長いハーブの歴史があるのです。今日はそんな歴史を網羅しながら、ハーブの世界の魅力へいざなってくれる、素敵なミュージアムをご紹介いたします。

イタリアで唯一のハーブ博物館「アボカミュージアム」

バロック様式のパラスは外観もクラシックで落ち着きがあります

トスカーナはアレッツオ県にある街、サンセポルクロ。画家、ピエロ・デッラ・フランチェスカが生まれたことでも有名なこの街ですが、アボカという薬草ベースのハーブティーやドラック類を販売する会社が、2002年にパラッツオ・バルボン・デルモンテ(Palazzo Bourbon del Monte)というとても素敵な1600年代のバロック様式のパラスにこのミュージアムを開館しました。

部屋の向こうにまた次の部屋……という造りは突き当たりまで見渡せて奥行きを感じさせてくれます
ここには主に8つのお部屋があり、各空間が時代別に分けられていたり、ハーブに携わる道具や美術品などをカテゴリー化してあり、とても見ごたえがある上、素晴らしいコレクションを所有していることが伺えます。それではお部屋別にその魅力を堪能してみましょう。

8つの間のそれぞれの魅力……第1の間は”すり鉢の部屋”(LA SALA DEI MORTAI)

ムラノグラスのシャンデリアと古書たちの調和が美しい部屋

美しいアンティークの植物画で飾られた階段を上るとそこはミュージアムの第1室、モルタイオ(すり鉢)の間(LA SALA DEI MORTAI)。
ここは石や大理石、金属で出来た各時代のハーブのすり鉢と世界の薬草学に関する文献の最も古いレクションが見られます。
ラテン語で書かれた薬用植物の説明、美しい植物画。美術品としてもものすごい価値のある書籍群がずらりと並びます。

展示される古書のページは周期的に変えられるので、何度行っても楽しい

その古い紙質といい、銅版画を手で彩色した挿絵の様式の美しさといい、時代を感じるアンティークの書籍たちは見る者を歴史のロマンに引き込んでくれます。

第2の部屋”歴史の間”(LA STANZA DELLA STORIA)

薬学に貢献してきた歴代の学者や医者の肖像画とともに並ぶ書籍たち

薬草書や紀元前、紀元後の各時代の医学者がどのように歴史の中で医学に貢献してきたかが彼らの肖像と共に語られます。
特に紀元前5世紀からヒポクラテスの偉業でギリシャにおいて科学となり、ローマの帝国時代には医学者ディスコリデとガレノスの出現により中世からルネッサンスまでの薬草学に決定的な足跡を残した……という下りには医学のテオリーが医薬品としての薬草とともに西洋で確立していった様子が伺え、とても興味深いものがあります。とても文学的な香りのするお部屋です。

第3の部屋”陶器の間”(LA SALA DELLE CERAMICHE)

薬草学とは切っても切り離せない薬壷。素晴らしいコレクションを堪能できます

中世の時代から、薬局や修道院で使われ、その優美さからただの容器ではなく美術品でもあったことは想像するに及ばない素晴らしいマヨリカ焼きの薬壷たち。イタリア国内の著名な窯元のものがずらりと並び、ハーブがただの薬ではなく、聖人や聖職者、シンボリズムに溢れたものであった事がとてもよくわかるスペース。

壷には内容物が美しいカリグラフィーで書かれている。薬、ハーブ、美術の歴史の繋がりを感じる部屋。

思えば著者がイタリアのハーブ文化に興味を持ったきっかけは、ファエンツアの陶芸学校で美学生をしていたころ美術館で見たハーブ用の壷でした。その鮮やかな色合いとさまざまな形を見て、”ハーブを入れるための壷がこんなに美しく作られていたということは、とても貴重なものとして扱われていたからなのだろう”と感動したのを覚えています。

第4の部屋”ガラスの間”(LA STANZA DEI VETRI)

吹きガラスの技法を活かしたさまざまな形の道具やボトルが並びます

紀元前1000年からエジプトですでに使われていた吹きガラスの技法。ガラスの容器はハーブの歴史の中でもバームや液体を入れるのに適していた他、蒸留用の器具も多くのものはガラス製でした。整然と並べられた道具たちはそれだけで佇まいが美しく、なぜかちょっと古めかしい理科室に迷いこんだような、古い家の戸棚を見るような気持ちにさせてくれる、不思議な部屋です。

旅行用に持ち歩かれていた薬箱。小さなビンが並んでいます

この部屋では製薬に使われていた道具類のほか、切子入りの美しいガラス容器、昔の人が旅行用に持ち歩いていた小さな薬入りのガラス瓶セットなどが、室内のフレスコ画と調和した雰囲気で展示されています。

第5の部屋、ハーブの雰囲気をたっぷり味わいたい方にぴったりの”ハーブの間”(LA STANZA DELLE ERBE)

天井からはさまざまなドライハーブが吊り下げられ、ここぞハーブの間、という雰囲気を醸し出しています
この博物館の中でもハーブがこれでもかと展示されている、ハーバリストの工房のような素敵な部屋です。ハーブの収穫や乾燥、保存方法や利用の仕方などに触れて、人間の生活と薬草たちが寄り添ってきた歴史を垣間見ることが出来、各家庭で使われていた加工用の道具は当時の様子を思い浮かべさせてくれます。

第6のお部屋”アンティークなスパイス店”(L’ANTICA SPEZIERIA)

現代の薬局の原形となる、ハーブやスパイス、それらの加工品を扱っていた1600年代のスペッツイエリア(スパイス、ハーブ販売店)を再現したスペースを再現している、魔女感覚いっぱいのファンタジーを掻き立てる空間。それまでは製薬技術は修道院のみのものであり、その製薬方法も秘密のレシピであることが多かったのですが、時代は変わり薬が庶民にも定着してきた時代です。ハーブだけではなく、かつてはスパイスや砂糖、ワインまでもが薬とされ、薬局の空間は沢山の商品で溢れておりそれはそれは賑やかな雰囲気でした。瓶の内容物を読むと、卵白、卵黄と書いてあったり、小麦粉や澱粉が売られていたと表示してあったり……まるで商店のようで思わず笑みが漏れてきます。

初期の蒸留器を中心に薬局というイメージが定着し始めた1600年代

すでに薬局では蒸留水、エッセンシャルオイル、チンキやシロップ、リキュール、ハーブ飲料、バームやクリーム、錠剤、粉状のスパイスなどなど…本当にたくさんの製品が販売されていました。1667年の記録では、薬局で販売されている商品の種類は60種、バリエーションは数限りなくあったようです。これもすごいお話ですね!

整然と並ぶ陶器の壷たち。デコレーションが無く質素だが、綺麗な青が印象的

第7のお部屋”植物化学のラボラトリー”(LABORATORIO FITOCHIMICO)

磁器の乳鉢など現代でも使われている道具や近代的な蒸留器も出てきた時代

1700年代の終わりから1800年代初頭にかけて薬草学の歴史は大きな変化の時代に差しかかり、植物化学の誕生の時代を迎えます。さらに進歩した器材を使うことにより薬剤の主要成分の幅は広がり、現在でも日常的に使用されているキニーネやカフェイン、モルフィネ、コデイン、アスピリンに使われていることでも有名なサリシンなどの植物由来の成分の抽出が行われるようになり、かつての古めかしい魔女の工房のような雰囲気から、近代的なラボラトリーへと薬学の舞台は変化を遂げてゆきます。

最後の部屋”1800年代の薬局”(LA FARMACIA DELL’800)

すっかり馴染みのある雰囲気の1800年代の薬局。古きよき時代という言葉が似合う

この時代になると薬局の雰囲気は近代のものとそう変わらないものになります。洗練された陶器の薬壷のコレクションや、当時の薬局の伝票など、レトロ感溢れる空間、古めかしさというよりはヴィンテージな感覚で展示を楽しむことが出来ますよ。あなたのひいおじいちゃんのお部屋に何かしら似たものはありませんか?

これで8つのお部屋の案内は終わりです、ハーブの歴史を味わった気分はいかがでしょう?
そのあとは展示室のほか、ブックショップやアボカ製品を販売するショップがあり、余韻を楽しみながらのショッピングが楽しめます。

ちょっとしたタイムマシン感覚を味わえる、異空間のミュージアム、ハーブ好きな方だけではなく、歴史や美術がお好きな方にも必ずお気に入りのお部屋が見つかるはずです。魔女修行、ハーブ修行に、ぜひ足を運んでみてくださいね。

アボカミュージアムAboca Museum
住所: Via Niccolo’ Aggiunti, 75,52037 Sansepolcro (AR)
電話:(39)0575 733589
開館時間:月~日10:00~13:00,15:00~19:00
休館日:イタリアの祝日
HP:http://www.abocamuseum.it/it/

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WRITER PROFILE
林由紀子
林由紀子

マルケ州、ウルビーノ近郊のカーイ(Cagli)在住。1999年渡伊、ファエンツァの国立美術陶芸学校の陶彫刻科を卒業後、現代美術アーティストBertozzi&Casoniのもとでアシスタントとして12年に渡ってコラボする。2003年にマルケ在住のイタリア人と結婚したのをきっかけに、マルケ州の郷土料理や工芸、美術文化に強く惹かれ、自らも陶芸家として活動する中、ウルビーノを中心とするマルケ北部や県境近郊の食文化、美術工芸文化を発信する(ラファエロの丘から)を立ち上げ、現地アテンドや料理教室、工芸体験などのオーガナイスや、ウルビーノを紹介する記事などを執筆。http://www.collinediraffaello.it/

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