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CULTURE 04 Apr 2019

華やかだけじゃない“イタリア社会の今”を映し出す ヴィアレッジョのカーニバル

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肉を食べない四旬節から生まれた「カーニバル」

世界で最も知られている祝祭のひとつ「カーニバル」。
毎年2月〜3月にかけて各地で行われるこの催しがキリスト教に由来するのは想像できても、その始まりを知る機会は多くありませんね。

十字架で処刑されたイエス・キリストの復活を祝うイースター前の40日間を四旬節といいます。
受難節とも呼ばれるその時期、かつて欧州でキリスト教徒は禁欲期間として過ごしていました。
彼らは断食をするか、もしくは一切の肉食を断って暮らしていました。
中世ラテン語の(肉carnem+除く levare)が、カーニバルcarnival、イタリア語のカルネヴァーレcarnevaleの始まりだったのです。

やがて禁欲期間は「厳しい生活が始まる前に、羽目を外して楽しんでおこう」という、より世俗的なものに変容してゆきます。これぞ今日に続くカーニバルの起源です。

日本では、「肉を感謝して頂くこと」かと勘違いしやすい「謝肉祭」と訳されたことも、本来の意味が浸透しにくい理由かもしれません。

富裕層の遊びから「みんなで楽しむ祭り」へ

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ヴィアレッジョの公式マスコットになっている「ブルラマッコ」(左)。オリジナルは1931年に地元出身の未来派画家ウベルト・ボネッティが考案したものです。女性をテーマ掲げた今年はミス・イタリア(中央)も招待されました。

イタリアのカーニバルといえば、絢爛豪華な衣装と仮面をまとったミステリアスなヴェネツィアのそれを真っ先に思い浮かべます。しかし、イタリア半島には他にも個性豊かなアプローチで楽しませてくれるカーニバルがあります。中部トスカーナにある海岸沿いの街・ヴィアレッジョで開催されるものも一例です。

19世紀中盤までヴィアレッジョにおいてカーニバルは、上流階級が邸宅や別荘、もしくは劇場で楽しむ、半ばプライベートなものでした。

やがて1873年、富裕層の若者たちが街の老舗カフェに集いながら、あるアイディアを思いつきます。仲間たちと仮装し、飾り付けをした馬車に乗って練り歩こうというものでした。これこそが、今日のヴィアレッジョにおけるお祭りスタイルの原点であり、庶民がカーニバルと接点を持つきっかけとなったのです。

ヴィアレッジョのカーニバルは、年を追ってその規模を大きくしていきます。海辺の街ゆえ、木工技術に長けた船大工たちも山車の製作に貢献しました。

戦後、カーニバルの復活。そして独自の技術で実現した巨大な人形

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海洋投棄される大量のプラスチックごみが、生物に深刻な影響を与えることをテーマにした山車。クジラが海中でもがき苦しむがごとく、上下左右にうねりながら進んでいきます。

第一次世界大戦中はカーニバル中断を余儀なくされたものの、人々はその傷跡から立ち直るべく、終戦3年後の1921年に早くも復活へと漕ぎ着けます。
1925年になると、地元画家アントニオ・ダルリアーノが、紙製の鋳型を用いた「張り子」を考案します。その技法は、山車に搭載する人形の軽量化を実現し、ひいては巨大な作品づくりを可能としました。今では、最も大きな人形は高さ20mに及びます。

地元の人々が蓄積した山車造りの技術は今日、その製作を専業とする工房に受け継がれています。彼らの活動拠点は、2001年に地元自治体によって完成した「チッタデッラ」といわれる屋根付きの基地で、約25工房・250人の職人が製作に取り組めます。参考までにカーニバル期間中は現場が開放されるため、一般人も彼らの作業を間近で見られます。

現代社会の抱える問題への風刺を込めて

当日、ヴィアレッジョの海岸通りを訪れてみると、4カテゴリー・約30台の山車がパレードの時間を待っていました。

開始に備えて最終調整をしていたある職人さんは、参加に至るプロセスを教えてくれました。「参加希望の工房は、前年の夏にどのような山車のデザインにするかを企画書にまとめて市に提出します。審査によって選ばれた工房は、その後約5ヶ月をかけて製作するのです」

いっぽう地元の人は、華やかなユニフォームに身を包み、山車の前や車上で踊ります。定員はあるものの、自分好みのテーマを掲げた山車を選んで応募できます。

期間中には山車のコンテストも開催されます。審査は、張り子のデザインだけでなく、衣装やダンスも含めて総合的に行われます。ある女性参加者は、「前の年から半年近く一緒に準備をするうち、参加者同士は家族同然の間柄になりますよ」と、興奮しながら説明してくれました。

数あるカーニバルのなかでヴィアレッジョのそれは、時代や社会、政治への風刺をテーマとすることに特徴があります。2019年、主催者が定めた最も大きなテーマは「女性と社会」でしたが、他にも「校内暴力」「環境汚染」「難民」そして「SNSに潜む危険」など、今日の私たちが抱える様々な問題がダイナミックな張り子を通じて表現されました。単なる賑やかなお祭りに留まらず、気骨ある問題提起の場でもあるのです。

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教科書を突き破って飛び出す3匹のハイエナは“悪”の化身。児童生徒間のいじめや、教員への暴力など、イタリアの教育界をとりまく問題を表現した山車です。

誕生から146年めを迎えた2019年は、春の到来を予感させる青空のもと、20万人の観客が迫力たっぷりの山車を見守りました。イタリアとヨーロッパの情勢がかつてないスピードで変化する中、ヴィアレッジョのカーニバルは時代を映す鏡の役目を逞しく演じ続けることでしょう。

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政治家をモティーフにした作品も少なくありません。2019年は人類が月面着陸に成功して半世紀にあたるため、トランプ大統領が表明している宇宙軍構想への皮肉を込めた山車が登場しました。

Information: 
ヴィアレッジョのカーニバルは毎年2月〜3月初旬にかけて、5日間開催される
Carnevale di Viareggio
http://viareggio.ilcarnevale.com
WRITER PROFILE
大矢 麻里 Mari Oya
大矢 麻里 Mari Oya

イタリアコラムニスト。東京生まれ。短大卒業後、幼稚園教諭、大手総合商社勤務を経て1996年からトスカーナ州シエナ在住。現地料理学校での通訳・アシスタント経験をもとに執筆活動を開始。NHKテキスト『まいにちイタリア語』『朝日新聞デジタル』などに連載多数。NHK『マイあさラジオ』をはじめラジオでも活躍中。著書に『イタリアの小さな工房めぐり』(新潮社)、『意大利工坊』(馬云雷訳 華中科技大学出版社)、『ガイドブックでは分からない 現地発!イタリア「街グルメ」美味しい話』(世界文化社)がある。

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