COLUMN
CULTURE 26 Sep 2018

【後編】イタリア好きに深く愛されているドキュメンタリー番組『小さな村の物語 イタリア』。ディレクターにインタビュー

平林 享子 Kyoko Hirabayashi
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BS日テレで放送中のドキュメンタリー番組『小さな村の物語 イタリア』。番組制作の舞台裏について、テレコムスタッフの望月一扶ディレクターと宮部洋二郎ディレクターにお話をうかがいました。インタビューの後編です。

【インタビュー前編はこちら】

◆インタビュー/構成:平林享子

みんなが自分の言葉をもっている

宮部:イタリアの村に行って、いろんな方に「幸せですか?」って聞くと、みんな「幸せです」って答えるんですよね。すごくポジティブですよね。

望月:「こんなすばらしい人生はない」って。つらいことをいつまでも引きずるんじゃなくて、前を見て、楽しく生きていこうっていうのが人間らしい。そこに惹かれる。それは、彼らがほんとに一生懸命に生きてきたからで、それが根幹にあるからこその明るさですね。自分の人生に、いかに常日頃から向き合ってるか、ということですね。

宮部:生きていればつらいこともいろいろあるけど、それでも「幸せだ」って言い切れるのは、すべてに真摯に向き合ってきたからで、どう向き合ってきたかということもちゃんと話せる。たとえば、トスカーナの山奥で暮らしている片足を失った写真家がいて、彼はもともとサッカー選手になりたかったんですが、足を失って夢は潰えてしまった。そこで気持ちを切り替えて、自分の村の写真を撮っていくんです。その写真が評価されて、プロの写真家になった。雪山の中を片足で登っていくんですが、われわれより全然早くて、すごく力強い。彼は、起こってしまったことは起こってしまったことで、後戻りはできないから、前に進む、立ち向かっていくんだ、と。そういうカッコいいことを、さっと言うんですよね。

みんな、自分の言葉をもってるんです。市井の人々が、こんなにも深い言葉、哲学的なことを言うんだって、うちのめされますね。自分の生きてきたありように誇りをもっていて、すごく学ぶことがあります。こういう生き方をしたいなってすごく思うようになりましたね。


トスカーナ州モンテフェガテーシ村にて。片足の写真家と村を見下ろす山で。 写真提供:宮部洋二郎

人間の本質的なところに触れている

――番組に対する視聴者の反響は感じますか?

宮部:僕もいろんな番組をやっていますが、他の番組のロケで地方へ行ったときとかに、名刺を出すと、「テレコムって『小さな村の物語 イタリア』をつくってる会社ですよね。あの番組、好きなんです」って言ってもらえることが多いんです。だから、届いている深さが、すごく深いというか、ずっと心に残るような番組になってるんだなって。それは望月さんが言ったように、すごく本質的なことをやっているからこそ届いているんだなっていう手応えを感じます。

望月:親の世代がよく見てくれてますね。

宮部:「お父さん、お母さんがこの番組、大好きなんです」っていう声は、よく聞きますね。

――2007年から11年、この番組を続けていらっしゃるスタッフの皆さんのモチベーションとして、大きいものはどんなことでしょうか?

望月:テレビの宿命でもありますけど、テレビは今を映すもの。ただ、この番組に関しては、普遍的なものをやっているから、10年前に撮ったイタリアと今のイタリアと、そんな変わってないと思う。人間の本質的なところに触れている番組なので、その姿勢は僕らも変わらないですね。

宮部:田口さんが冗談で言ってたのは、「イタリアに小さな村は8400ぐらいある。今のペース(年間26本)でやってたら200年以上かかるから、このシリーズは終わらない」と。

望月:僕らはもちろん仕事で行くわけですが、違う国の違う文化、違う言語、価値観をもった人たちの人生に触れて、撮影を通じて、結果的に何か通じ合うものができたりして、すごく人間としてもすごく勉強になるというか、ありがたい経験をさせてもらってる。撮影が終わって、別れ際とか、けっこう辛いですね。泣いちゃう人とかもいるし。必ず「また来てね」って言ってくれる。おそらくそういう日は来ない。一期一会だってことは知ってるから。でも、「また来てね」って言ってくれる。

宮部:「もう家族だからね。いつでもドアの鍵を開けてるよ」って言ってくれるんですよね。たまらないです。

望月:あれはたまらんよね。

宮部:村人みんなが善人ですばらしい人ばかり、というわけではないし、中には困った人だって当然いるわけですが、そこもひっくるめて面白いですよね。

望月:悪びれない。自分というものに対する自信があって、「オレはオレなんだ」という自己表現がちゃんとできるのは、非常にいいんじゃないかと思います。

――自己主張が下手な日本人から見ると、堂々としていてうらやましいですね。

宮部:都会と村の違いはあって、ミラノやローマなど都市部に住んでいる人は、やっぱり日本に近くてクールになっていると聞きます。ただ、イタリア人は、心の拠りどころとしての「村」を大事にしていて、それが「小さな村」を意味する「ボルギ(Borghi)」という言葉にも込められている。

望月:取材させてもらった家族に、たいてい食事に招待されるんです。家でごちそうになる料理がめちゃくちゃうまい。地元で評判のレストランにも行きますけど、家庭でおばあちゃんやおかあさんがつくってくれた料理には、かなわない。


ピエモンテ州ガルバーニャにて。取材した家族と。 写真提供:望月一扶

宮部:圧倒的に家庭料理のほうがうまいですね。ぼくの想像ですが、レストランはおいしくしようといろいろ足してるけど、家庭料理はほんとうに素朴で、イタリア料理って素朴な料理なんじゃないかと。一番印象に残ってるのは、シンプルなトマトのパスタですね。トマトソースだけなのに、すごくコクがあって、なんでこんなにおいしいんだろうって。

望月:ワインもそう。家で作ったワインのほうがうまい。

宮部:ただ、量がものすごく多いんですよね。残すわけにもいかず、必死に完食したら、お母さんが「デザートもあるわよ」って、丼ぶりに山盛りのティラミスが出てくるとか(笑)。

望月:だいたいみんな自分ちの畑を持ってますね。

宮部:うちの畑で採れた野菜よって。お肉も、飼っている羊だったり、狩りでしとめた山羊とかなので、うまくないわけがない。

望月:あと、バールに行くと、必ずおごられない?

宮部:おごられますね。

望月:挨拶のようにおごってくれる。知らない日本人が来ても受け入れてくれて、家族みたいに扱われる。

宮部:バールっていう文化もいいですよね。必ず村に一軒はあって、そこに行くと、いつもの顔ぶれがいて。「この人何やってんだろう」という人もいるんだけど、村の一員として認められている。村自体が家族なんですよね。だからみんな自分の村が好きっていうのもありますよね。

望月:人との関係性、絆が深い。

宮部:懐が深いですね。

リグーリア州ピーニャ村にて。写真提供:望月一扶

幸せに生きるためのヒント

――日本は経済成長も終わって少子高齢化社会ですし、格差社会も進んでいて、将来に希望をもてない人がたくさんいます。そんなときに、この番組を通して、イタリア人の生活の哲学に触れられることが人気の理由なんだろうなと思うのですが。

望月:日々暮らせるお金さえあればいい、自分が毎日楽しく幸せに暮らせれば、それ以上のことは求めないって言いますね。

宮部:幸せに必要なのはお金じゃない、というのはみんな言いますね。 大事なことは、足るを知ること。 上を目指すことも大切だけれども、 今に満足することも大事なんじゃないかと。

望月:日本人と圧倒的にちがうのは、政治に対する関心と知識。日本人みたいに見て見ぬふりはしない。 自分の人生に関わることとして政治意識が非常に高いですね。

宮部:あと、美意識が高いのも感じますね。どんなに田舎へ行っても、家の中はきれいに整頓されててゴチャゴチャしていない。自分の人生に対する美意識が高いというか、センスがいいんですよね。

――この番組の全編に流れるイタリアの音楽も大きな魅力です。

望月:選曲を担当してくれている小堀貴史(こほり・たかふみ)さんと田口さんのアイデアで、イタリアのポップスを使うという決まりになっているので、毎回、なるべくその地域の音楽で、なおかつちゃんと歌詞の内容もテーマと合うものを選んでくれてるんです。小堀さんは、1回目からずっと選曲を担当していて、今ではすっかりイタリア音楽に詳しくなったそうです。

宮部:1回目からずっとといえば、三上博史さんの語りもそうですね。

望月:三上さんは、この番組に欠かせない存在。三上さんにしかできない、やさしくて寄り添うような語り口ですが、裏設定があって、大天使ミカエルという。

――大天使ミカエル! ああ、そういうことなんですね。

望月:三上さんは天使なので、村人を全部知っていて、見えない存在として、いつもその場にいる。だから、三上さんの語りは、普通のナレーションのような「~~らしい」とか「~~だそうだ」という伝聞的な言い方はしないんです。田口さんが、『ベルリン・天使の詩』(ヴィム・ヴェンダース監督、1987年)のブルーノ・ガンツ演じる天使みたいな存在にしようと考えたんです。

宮部:すごくシンプルな番組なんですけど、シンプルなだけに、ひとつひとつにすごくこだわりが強いですね。

おふたりのお話を聞いていて、この番組の舞台がイタリアでなければならかった理由が、よくわかりました。

【インタビュー前編はこちら】

◆『小さな村の物語 イタリア』公式サイト 

 http://www.bs4.jp/italy/

◆お話をうかがった方々

PROFILE
望月一扶(もちづき・かずほ)
テレコムスタッフ ディレクター
1991年、テレコムジャパン(現・テレコムスタッフ)に入社。数々のドキュメンタリー、ドラマ、情報バラエティなどの演出を手がける。NHK BSプレミアムの人気ドラマ『植物男子ベランダ―』では構成、脚本、演出、選曲を担当。2009年、NHK『星新一ショートショート』で第37回国際エミー賞コメディ部門グランプリ受賞。

・・・・・・・・

宮部洋二郎(みやべ・ようじろう)
テレコムスタッフ ディレクター
2003年、テレコムスタッフ入社。海外鉄道番組『世界の車窓から』をはじめ、フジテレビ『NONFIX』やNHK総合『明日へ つなげよう』などドキュメンタリー番組を多く手がける。東日本大震災以降は復興支援番組NHKBSプレミアム『きらり!えん旅』を現在までレギュラーで担当。

WRITER PROFILE
平林 享子 Kyoko Hirabayashi
平林 享子 Kyoko Hirabayashi

エディター、ライター。早稲田大学教育学部卒業。美術・デザイン・映画を得意ジャンルとするフリーランスとしてさまざまな雑誌で活動した後、映画制作会社のスタジオジブリの出版部へ。インハウスエディターとして、宮崎駿著『折り返し点』(岩波書店)などの書籍、展覧会図録、広報誌「熱風」の編集を担当。ジブリ退職後は活動の場をWebメディアに移し、2018年よりWebマガジン「SHOP ITALIA」の創刊編集長(2018年2月~10月)。

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